赤ちゃんのアトピー性皮膚炎について
赤ちゃんのアトピー性皮膚炎は、生後2ヶ月から6ヶ月にかけて顔の中でも凸部であるホッペタやアゴ、おでこ、耳の前後に赤い湿疹がたくさん出来て次第にそれがつながって表面がジクジクした赤みになって生じることがほとんどです。鼻の横や口のすぐ周りなどくぼんでいる凹部は刺激が少なく正常な皮膚が残っているのが特徴です。最初は乳児湿疹・脂漏性皮膚炎の悪化した皮膚症状と区別がつきにくい事もありますが、症状が2ヶ月以上も続き、首や体、膝の裏や足首・手首などの関節部に赤みが広がっていくと臨床的にはアトピー性皮膚炎と診断出来るようになります。
一般に学童期の子供に比べると食べ物との関連が多いと言われ、卵や牛乳・大豆などのある特定の食べ物をとった後30分から1,2時間後に顔や体にジンマシンのような赤みが出て一回消えるもののその後に体全体のアトピー性皮膚炎の症状が悪くなります。 ただ臨床的に数多くみていると必ずしも食べ物だけで悪化するとも限らず、また学童期に進むに連れて自然に減感作(段々とアレルギーが出にくくなること)されていくのが通常です。(一部のアナフィラキシーを起こすよう例を除いて)
一般的に卵白・牛乳のアレルギーに関しては血液検査上の抗体価と実際のアレルギー症状との一致率が高いので、抗体価が高ければ赤ちゃんのうちはこれらの食べ物を除去して皮膚が改善するかどうかを慎重に観察します。一方で米・大豆・小麦などでは採血上の抗体価と実際の症状の悪化とが結びつかないことも多いため、実際その食べ物を2週間除去して改善があるか、また少し与えてみて悪化するかどうかを観察していく必要があります。
年齢が上がっていくにつれて抗体価が陽性のままでも自然に治っていくことも多く、例えば牛乳は1才までに50%、2才までに70%、3才までに約90%が寛解するといわれています。食べ物の除去テストで皮膚が良くなる場合や逆にその食べ物をとることにより症状が悪化するなど、本当に食事制限が必要な子供は少ないですし必要以上の食事制限は成長・発達にとってもしない方がよいでしょう。1才を過ぎてくるとダニやホコリなど環境因子の抗体陽性が増えてきますが、これらを環境から完全に除去する事は不可能であるためできる範囲で気をつける程度で、あとはスキンケアを行うことが重要です。
スキンケアは、第一に入浴・シャワー浴でまめに汚れや汗、ダニ・ホコリ、細菌を落とすこと、また第二に入浴後すぐ、そして適宜その子その子に合った保湿剤を外用して皮膚の一番外側にある角質のバリア機能を高める事が大切です。
食べ物の抗原はバリア機能が壊れた弱い皮膚を通じて感作を起こしてアレルゲンとなりやすいことが分かってきているために、赤ちゃんからの保湿スキンケアの重要性が改めて見直されています。
幼児・子供のアトピー性皮膚炎について
2才から学童期の10才くらいまでの皮膚症状は、それまでのジクジクした湿疹からカサカサした乾燥性の皮膚炎へと移行します。体や四肢などに毛穴が鳥肌様に目立ってガサガサ感じられるアトピック・ドライスキンの上に擦れやすい部位や掻きやすい部位に一致して丸い盛り上がった堅い赤み(貨幣状湿疹型の)がポツポツと島状に点在します。
進行すると膝や肘、手首足首、首の後ろなどに厚みのある堅い皮膚症状が出現し、時に痒みのため掻いた傷跡もみられるようになります。
その後12才ころから思春期のころにかけては今度は上半身に皮膚症状が出てくるようになります。背中上方、胸部上方、くび、顔に細かいカサカサしたリンセツ(皮むけ)を伴う赤みや痒みが生じてきますが、重症化すると全身に症状がみられるようになります。
入浴法
オケにぬるま湯を少量いれて固形石鹸をそのぬるま湯で泡立てます。その泡やその石鹸が溶けて薄まっているぬるま湯をすくって手で汚れたところのみ毎日洗うようにします。乾燥しやすいところは石鹸を使わないでお湯で洗うだけで十分です。
汗のかく時期や外遊びで汚れた時は帰宅後すぐシャワーで汚れを(石鹸を使わずに)流すことも大切です。
あがったら10分以内に保湿剤を外用します。炎症や痒みがあるところはまず、処方薬を塗った後に保湿クリームを外用します。処方する保湿クリームでもカサカサがある場合は、セラミドなど天然の保湿因子の入ったものも有効です。
セラミドなど保湿因子が欠乏しやすいアトピー性皮膚炎の皮膚症状では、皮膚を守る角質のバリアが弱まり、”とびひ”や水イボ、イボなどの感染症が起こりやすくなります。
最近の研究でアトピー性皮膚炎の患者さんは”フィラグリン”という表皮にあるタンパクが欠損または減少しやすいということがわかりました。フィラグリンは皮膚の角質バリアの形成に大きく関わる因子であるため、その欠乏または減少によってバリア機能が障害されてアレルゲンの侵入が繰り返し起こりやすく、アレルギー反応が獲得されてアトピー性皮膚炎が生じやすいと推測されています。
アトピー性皮膚炎の塗り薬
日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドラインが2008年に改定され、皮膚科医のなかではアトピー性皮膚炎の外用に関してはエビデンスに基付いて保湿剤・ステロイド・プロトピック軟膏(タクロリムス)を症状に合わせて治療に用いる事が当たり前になってきました。とはいっても、ステロイド、というと副作用だけイメージされる方や、免疫抑制剤(プロトピック軟膏)と聞いただけで不安を感じる方が多いという事実も皮膚科医は日々感じています。アトピー性皮膚炎は長期にわたって保湿剤を含めた塗り薬を使用することが多くなるため、外用薬の副作用が気になり不安になるのは当然といえば当然と思われます。
患者さんの理性に訴え、正しい判断をしていただくために、皮膚科医は最新、かつエビデンスに基付いた情報や知識を提供しながら診療していきたいと思っています。詳細な外用療法(塗り方、塗る量、塗る場所、塗る期間)を診察中に指導しながら、経過を良くなった時にも診せていただき適宜塗り薬の種類や塗り方をアドバイスさせていただければと思います。
ステロイド外用療法について
1995~2002年頃にかけて海外で行われた実験でも、中~長期に外用した場合の安全性(適切な強さのものを適切な量用いた場合)はほぼ確立されています。(うちひとつにおいて8%に皮膚萎縮を認めるもその後軽快しています。)
全年齢において、体重10kgあたり月間15g未満、という一つの目安があり、通常の皮膚状態ではこの量を超えないように注意します。(50kgの大人では毎月75g未満、小さなステロイドのチューブが15本未満、日に換算すると2.5g、毎日あたり小さなチューブの半分の量を炎症部のみ外用する、ということになります。) 短期間では実際皮膚炎症部分が広いとこれ以上の量が必要になることがありますが、ステロイドは塗る量が減ると局所的な副作用も減ることが分かっているため、可能な範囲で減量していく必要があります。
減量方法
ステロイドを毎日2回適切に塗って症状を抑えたあとは週2~3回外用することによって皮膚状態を維持することができます。ステロイドを塗らない日は保湿剤を外用します。炎症が残る場合は、保湿剤を広めにぬって炎症部にはスポット的にステロイドを外用します。ステロイドは炎症部位だけでなくて、正常皮膚からも吸収されてしまうため(比較として、プロトピック軟膏は全体に塗ってしまったとしても正常部位からは吸収されません)、スポット的に塗ったほうがよいのです。
ではどのような部位に塗ればよいかというと、紅斑(赤くなった皮膚)・丘疹(ブツっとしたりザラザラ感が強い皮膚)・苔癬化(たいせんか・炎症が長引いて盛り上がって硬くなった皮膚)に朝、入浴後に2回外用します。
炎症が中等度に下がったら2回でなく1回入浴後に塗るだけで充分です。(中等度以下であれば1日1回と2回では有意差がないことが分かっています。)
適切な塗る量
1FTU(funger tip unit)といって、大人の人差し指の先端の関節部に約2cmほどチューブをだした量(0.5g)で、大人の手のひら2枚分の広さにぬる量が適量です。例えば大人の両腕全体にぬると4g(8FTU)3~5才の子供の両腕全体ではその半分の2g(4FTU)という量になります。現実的には腕全体が炎症で赤いことは稀であると思いますので、実際のステロイド使用量はそれよりも少なくなると思われます。
身体の部位による適切なステロイドの強さ
腕にステロイドを塗ったときの吸収率を1とすると、顔のほっぺたでは13倍、首では6倍、わきでは3.6倍、陰部では42倍もの吸収率になります。このことから考えても、顔・首・脇・陰部では弱いランクのステロイド(アルメタ、ロコイド、キンダベートなど)を少量使用するべきでしょう。顔・首などはプロトピック軟膏も効果的ですので長期にわたる場合はプロトピックへと切り替えていくとよいでしょう。
ステロイドのランク、強さについて
現在5段階(実際使用するものとしては4段階)に分かれてはいますが、ステロイドの抗炎症作用の指標とされる血管収縮度だけで決定されたものでなく、リンデロンV軟膏とロコイド軟膏を標準にしていくつかの臨床試験を考慮しながら専門家の多くが集まって決定されたものであって、完璧な段階分けというのは不可能なのです。アトピー性皮膚炎の患者さんへ処方するステロイド薬やその保湿剤との混合方法に関しては、自分の今までの臨床経験や知識に基付いて皮膚科医個人個人が考えていかなくてはいけません。
プロトピック軟膏(タクロリムス)の特徴と塗り方について
タクロリムス(プロトピック)は筑波山の山ろくの土より分離された放線菌が産生する化合物でT細胞活性化を強力に抑制することから臨床的に応用された薬剤です。その外用剤であるプロトピック軟膏は、1992年より成人アトピー性皮膚炎患者を対象に開発が行われ、1999年に0.1%プロトピック軟膏が発売され、その後2003年には小児用0.03%プロトピック軟膏(海外では成人用としても認められています)が2歳以上16才未満の小児に対し発売となりました。
2歳以上のアトピー性皮膚炎の患者さんの特に顔面や首、そして脇やそけい部などに治りにくい皮膚症状がある方や、ステロイドによる皮膚萎縮などがみられる方などに有効ですがそれだけでなく、ステロイドで症状が一時的におさえられて軽快した皮膚のその後の維持療法としても有効です。
ステロイドと異なる点は、炎症部位からだけ吸収され、正常皮膚からは吸収されないこと、そして皮膚角質のバリア機能も低下させず、天然の保湿因子であるセラミド産生も低下させないことです。(ステロイドは正常皮膚からも吸収され、長期に使用するとセラミド産生も含めた皮膚バリア機能が低下した状態で治ったことになります。)
アトピー性皮膚炎の炎症がよほど強いとき以外は1日1回、入浴後に外用します。ぬる量は大人の人差し指の末梢関節部の長さ(約2cm)にチューブを出した量が手のひら2枚分の広さにぬる量、というのを参考にしてください。 炎症部位にぬるとヒリヒリしたほてり感や痛みを感じることが多いですが、この刺激感はプロトピック軟膏自体がもっている、神経ペプチド放出して枯渇させることによるものと考えられていて、塗り続けることにより徐々に刺激はなくなっていきます。それと同時に痒みや赤み、炎症も薄らいでいきます。この刺激感が強すぎて途中でやめないようにするためには先にプロペトやワセリンを塗ってからプロトピックを塗るようにしたり、顔面よりも刺激の少ない首や脇などから始めるようにするなどもお勧めです。 プロトピックは分子量が822と大きく、ステロイドに比べ皮膚への浸透が悪く、正常な皮膚からは吸収されないため、保湿剤と併用するためにはプロトピックを先に、保湿剤を後に塗ったほうがいいでしょう。また、大きなニキビや大きな皮膚のビラン(ただれ)には外用を避けた方がよいですが、多少の引っかき傷くらいであれば外用しても問題ないでしょう。
プロトピック軟膏の臨床的な効果はリンデロンなどのステロイドランクと同じ位しっかりと強いため、皮膚症状が一時軽快した後に炎症が再燃した際の第一選択薬として使うこともとても有効です。また、症状が安定した後も週2~3日プロトピック軟膏を使い続けることによってアトピー性皮膚炎の症状を抑制できることもわかっています。
アトピー性皮膚炎の治療においてステロイドの塗り薬のみに頼らずに、部位によってはプロトピック軟膏を維持療法に週何日か用いる、また症状が再発した時の第一選択肢に用いる、ということが重要です。
難治性アトピー性皮膚炎の皮膚症状・痒みについて~ネオーラル内服療法について
ネオーラルとは、18才以上のアトピー性皮膚炎の患者さんで既存の外用により十分な効果がみられない方、炎症が強い皮膚の面積が広い場合(約30%以上)に内服していただく治療法で、強い痒みや痒みによる不眠に対して即効性のある治療薬です。
もとの薬剤であるシクロスポリンは免疫反応を司るTリンパ球の活性化を抑制する働きがあり、T細胞から生産されるサイトカイン、特に痒みを引き起こすIL-31の産生を抑制することにより強力なかゆみ止めの効果をもたらすと言われています。ネオーラルはシクロスポリンが食事により吸収のバラツキがあるためその改善のために開発された薬で薬効はシクロスポリンと同等です。
内服方法は、体重1kgあたり一日3mgを8週間内服して、その後2週間休薬するサイクルを1クールとして症状に合わせて繰り返す方法です。例えば体重70kgの方では約200mg
(50mgを朝夕食前に2錠ずつ)内服してまず2週間後に効果を判定します。たいていの方が内服を始めて2~3日後に痒みが急に減弱して効果を実感します。また、掻かないことによって、また中から炎症が収まる事により皮膚のタイセン化した硬いゴワゴワした状態が改善されることを実感します。4~8週内服した後2週間休薬しその後皮膚症状に併せて中止したり繰り返したりしていきます。
今までどうしても痒みが収まらず難治性のアトピー性皮膚炎の方の治療の選択肢として考えてみてはいかがでしょうか。